海苔についての詳しいお話を、佐賀県工業技術センター 柘植 圭介(つげ けいすけ)さんにお伺いしました。
海苔(ノリ)ってなに?
海藻のなかには、アオノリ、フノリ、カゴメノリなど、○○ノリと名の付くものがたくさんありますが、私たちが普段ノリ(海苔)と言って食べている海藻は、 「スサビノリ」と呼ばれる、「紅藻類ウシケノリ科アマノリ属」に属する藻類です。 海苔は大変美味しく、希少な海藻なので古来は珍重されていましたが、近年、養殖技術が発達し、私たち誰もが食べることができるなじみ深い海藻になりました。
海苔はどこで採れるの?
海苔は、元来は日本国内では北海道から本州北部の波の強い岩礁域の潮間帯に自生しています。岩や防波堤などに着生し、干潮時には干上がるような大変厳しい環境でも成長します。このような過酷な環境を生き抜くため、海苔は、進化の過程で豊富なタンパク質やビタミン類、海苔にしか含まれない有用物質を体内で生産できるようになったといわれています。
現在では育種技術の発達により、高水温でも成長できる品種が開発されました。また養殖技術も進んだため、遠浅の海岸を利用して大規模に養殖が行われています。なかでも有明海は、海苔の養殖地として国内では最大規模を誇ります。
海苔に含まれるうま味成分(グルタミン酸やイノシン酸)の量は、だしの原料である昆布やかつお節に匹敵し、大変美味しい食材です。
しかし、海苔は、うま味成分だけでなく、ヒトの成長に必要な栄養素をたくさん含んでいます。
また、最近の研究によれば、海苔にはヒトの健康維持に役立つ機能性成分を含むことが報告されています。
そのような栄養素や機能性について紹介します。
海苔はビタミン類を満遍なく含んでおり「天然のサプリメント」といえる程ですが、なかでもビタミンA、葉酸そしてビタミンB12の含量は特筆すべきものです。 ビタミンAは目や皮膚の粘膜を健康に保ち、体の抵抗力を強める役割があります。海苔に含まれるビタミンAのほとんどがβ-カロテンと呼ばれるカロテノイドで、その量は3,600 μg/100g(レチノール活性当量、日本食品成分表8訂より)と植物性食品の中では最大です。
葉酸は、ビタミンB12とともに赤血球の生産を助けるビタミンです。また、代謝に関与しており、DNAやRNAなどの核酸やたんぱく質の生合成を促進し、細胞の生産や再生を助けることから、体の発育にも重要なビタミンです。葉酸は細胞の分裂や成熟を大きく左右するため、特に胎児にとっては重要な栄養成分であるといえます。妊婦が葉酸を十分に摂取することで、胎児の先天異常のリスクを減らすことができます。海苔に含まれる葉酸の量は1,900 μg/100 g(焼き海苔:日本食品成分表8訂)で、植物性食品の中では最大です。また、ビタミンB12は動物性食品にしか含まれませんが、海苔には例外的に含まれており(焼き海苔:58μg/100g、日本食品成分表8訂)、動物性食品の摂取を控えている方々のビタミンB12欠乏を防ぐことができます。
タンパク質は、筋肉、臓器、皮膚、骨、毛髪など人体組織の生成に欠かせない栄養素です。それだけでなく、ホルモンや免疫物質といった、身体を調整する物質の材料にもなるのがタンパク質の働きです。 ヒトは、タンパク質の素であるアミノ酸のすべてを体内で合成することができないので、必ず食事として摂取する必要があります。
海苔は他の海藻、豆類、野菜と比較するとタンパク質が極めて多く、41.4g/100g(焼き海苔:日本食品成分表8訂)にもなります。高タンパク質で有名な大豆が33.0g/100gですから、大豆よりも多いことが分かります。
ポルフィランとは、アマノリ属藻類にのみ含まれる水溶性食物繊維の一種で、熱水に溶け、粘性があります。
ポルフィランは海苔に30%程度含まれますが、ポルフィランの摂取がメタボリックシンドロームを予防するという研究が報告されています。
ポルフィランを実験動物(マウス)に食餌中5%レベルで摂取させました。その結果、ポルフィラン摂取により、セルロース摂取群に比べて脂肪組織重量や肝臓脂質の有意な低下を示す結果が得られました(図1)。
また、ポルフィランが感染症や異物から生体を守る免疫系を増強するという作用も報告されています。
免疫系では、抗体と呼ばれる物質が、微生物や異物を体内から除去する役割を果たします。
抗体産生に及ぼすポルフィランの影響を調べるため、実験ラットに食餌中5%レベルでポルフィランを摂取させました。
硫酸化度が異なる2種類のポルフィラン、もしくは、ポルフィランと構造は似ているがほとんど硫酸基を持たない寒天を摂取させ、腸間膜リンパ節(MLN)リンパ球の抗体産生能を対照群(セルロース群)と比較しました。
その結果、腸管免疫系に属するMLNリンパ球においては、低硫酸化群と高硫酸化P群の両ポルフィラン群で、セルロース群に比して有意に高い抗体濃度となりました(図2)。
このことは、ポルフィランが腸管免疫の活性化を通じた免疫増強作用を有していることを示唆しています。
ここに挙げた以外にも、海苔は、EPA、ルテイン、フロリドシド、タウリン、ベタインなど、機能性成分を数多く含んでいます。
海苔を毎日継続して食べることで様々な栄養素や機能性成分を摂取でき、健やかな生活に役立つことが期待されます。
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